10月15日(土)午後、貸会議室オフィスゴコマチにて、民族文化研究会の関西地区第50回定例研究会が開催された。
報告者は有坂氏。「大串兎代夫の憲法思想――『権威』の国家学」と題し、報告を行った。大串兎代夫は、戦前期に活躍した憲法研究者であり、近年になって官田光史や大谷伸治による関係論文が公表され、研究が盛り上がりを見せつつある。
本報告は、こうした研究動向を踏まえ、大串を取り上げるわけだが、とりわけ大串によって展開された、「権威」概念を中心とした国家学説・憲法学説を概観する。大串は、ドイツ留学中に、カール・シュミットから影響を受け、この議論を提唱するようになった。
シュミットは、第一次世界大戦における総力戦体制を経て、国家が単なる政治的機構に留まらず、国民生活の各部門に進出し、その統制を試みる「全体国家」に移行した、と説いた。大串は、こうした議論を日本に導入し、総力戦体制を実現しようと考えた。
しかし、こうしたドイツの議論は、外在的な強制力によって、すなわちナチ党の強権支配によって、無理に国家統合を図っているに過ぎない。こうした「権力」による統合だけではなく、人々の内面に働きかけ、国家への自発的服従をもたらす、「権威」による統合も考慮しなくてはならない。
こうして、大串は、シュミットらの「全体国家」論から影響を受けるが、その不足店を補うため、「権威」概念を中心とした国家学説・憲法学説を模索する。こうすることで、日本における総力戦体制の円滑な実現が構想されたのである。
報告後は、質疑応答が行われたが、当時の独伊における全体主義的指導者のもつ「権威」と、日本における天皇の「権威」(いわゆる「御稜威」)の差異などの論点について、活発に議論が行われた。