【関西】定例研究会報告 井上孚麿の憲法思想――天皇親政論から新体制批判まで

 8月20日(土)午後、民族文化研究会の関西地区第48回定例研究会が開催された。今回は、新型コロナウイルスの感染拡大を鑑み、skypeを使用したオンラインでの開催となった。

 報告者は有坂氏。「井上孚麿の憲法思想――天皇親政論から新体制批判まで」と題し、報告を行った。戦前期の憲法学説において、天皇・国体を巡る問題が、中心的論点だったことを鑑み、天皇・国体について積極的に議論を行った井上の憲法学を検討することで、同時代の憲法学説を理解する一助とした。

 井上は、戦前期に文部省が発行した国体解説書である『国体の本義』の編纂委員であり、当時の国体明徴運動に、憲法研究者として参画した。井上の学説は、帝国憲法が欽定憲法であることを強調し、その正確な解釈・実践を何よりも訴えるものだった。井上は、天皇機関説などに表れている、当時の通説的憲法理解が、西欧の国家学・憲法学の模倣だと批判し、天皇親政こそが、帝国憲法の本来の意義だとする。

 その上で、近衛文麿に指導された新体制運動に対し、峻烈な批判を展開する。帝国憲法は、前近代の武家政権が、包括的な権限を手にすることで、自身が主権者として行動した結果として、天皇大権を壟断したことを反省し、補翼機関(政府・議会)の権限を多元化・分散化した。しかし、新体制運動は、政治的権限の集中と、国家機構の一元化を主張する。

 これは、帝国憲法の趣旨に反し、前近代の武家政権の旧弊を踏襲している。この意味で、井上は、新体制運動は「幕府的存在」だとし、天皇大権を壟断しかねない運動であるとして、徹底的に批判する。本報告では、こうした天皇親政論と新体制批判に焦点を当て、井上の憲法学説を概観した。

 

井上孚麿