里見岸雄『討論“天皇” 』輪読会の模様

 民族文化研究会関西地区定例研究会では、会員による研究報告と並行して、日本文化・日本思想についての古典的著作を対象とした輪読会を行っています。現在の輪読会のテキストとなっているのは、里見岸雄『討論“天皇” 』(日本国体学会、昭和50年/原著は昭和37年)です。本書は、戦後になって吹き荒れた敵意に満ちた不正確極まりない天皇論に対し、その誤謬を明快に指摘することで応酬し、大衆における正確な天皇観の形成を図ることが目的になっております。いわば、天皇論についての啓蒙書として位置付けられるでしょう。
 その文体は平易で、天皇論における諸問題を手に取るように把握させ、戦後の天皇論に伏在している誤謬が、次々と明らかにされます。この論旨の明瞭さは、本書が討論形式で展開するためでもあります。本書は、様々な出自や職業の面々(学生・新聞記者・教師・美容師・労組活動家・看護婦・元軍人・主婦・神職・僧侶・経営者)が、里見が自身を仮託したと思しい法学博士大内山護を導き手としつつ、各々の天皇観を表明し合う、架空の座談会の速記録という形式を取っています。ここでの白熱の討論が、天皇論上の諸立場の相剋を、極めて明瞭に描き切っています。
 しかし、単なる平易さや、戦後の天皇論への各論的な反論だけが、本書のもつ特色というわけではありません。平易な会話文によって読者を説き伏せる形式を持ちつつ、本書の基本思想は、著者の理論的著作である『万世一系天皇』などと同じであり、高度な内容を平易な文体で表現することに成功しています。これこそ、「啓蒙書」の面目躍如であって、冒頭で本書を「啓蒙書」と呼んだのは、このためです。単なる戦後の天皇論への批判に留まらない、著者が「国体科学」と呼ぶ、正確な天皇観の形成こそ、本書の企図するところなのです。こうした本書に関心をもち、関西近辺にお住まいの方は、どうか民族文化研究会関西地区定例研究会にお気軽にご参加ください。(関西支部事務担当・湯原)

 

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里見岸雄『討論“天皇”』