【書評】東郷茂彦『「天皇」永続の研究――近現代における国体観と皇室論』(弘文堂、令和2年)

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 わが国の天皇制度は、古代から現代まで、連綿として続いてきた。世界の君主制の中でも、その歴史の古さは、比類無きものだと言える。

 ここで、なぜ天皇制度は長く続いてきたのか、といった疑問が浮かぶだろう。また、どうすれば、これからも天皇制度を長く維持できるのか、といった課題も生まれてくる。

 本書は、こうした「天皇制度の永続」が提起する問題に対し、過去の皇室制度の変遷や、様々な論者による皇室論を検討することによって、いわば制度面と思想面の両面から、応答を試みようとするものである。

 まず、本書前半部では、制度面からの考察がなされる。大祓(第一章)、陵墓(第二章・第三章)、皇位継承(第四章)といった皇室に関係する諸制度の変遷が検討され、いかにして皇統の維持が図られてきたのかが明らかにされる。

 そして、本書後半部では、思想面での考察がなされる。田中治吾平(第五章)、上杉慎吉・天野辰夫(第六章)、葦津珍彦(第七章)、昭和天皇(第八章)といった様々な論者の皇室論・国体論が検討され、どのように皇統の維持が構想されてきたのかが明らかにされる。

 上記の考察を経て、筆者は結論として、天皇制度は「血統・信仰・共同体」という三つの側面を持ち合わせていたため、長く維持されてきたとする。

 すなわち、天皇制度は、男系男子による世襲を徹底することで、血統を確実に後世に伝え、また天照大御神の末裔として、民衆による信仰の対象となり、また共同体の繁栄を祈る祭司としての位置を占めてきた。このため、天皇制度は長く維持されてきた、とするのである。

 このように、本書は、「天皇制度の永続」が提起する問題に、制度面と思想面の両面から、応答することに成功している。

 本書でも触れられているが、皇族数の減少など、「天皇制度の永続」を危うくする問題状況が昨今では生じている。こうした状況下で、本書のように皇室制度の永続性について再考を試みる書は、非常に大きな意義をもつのではないだろうか。