当会の宮田昌明顧問の新著『満洲事変――「侵略」論を超えて世界的視野から考える』がPHP研究所から刊行された。
本書は、近代日本の歴史的展開を、権威主義的体制の確立とアジアに対する軍事的進出というステレオタイプのもとで理解する侵略史観を相対化し、近代国際秩序の形成という長期的な歴史的文脈を踏まえ、理念と現実が複雑に交錯する当時の状況を多面的・複合的な視座から理解することを目指し、同時並行的に各国の情勢を概観する手法によって、戦前期の国際秩序にとって転機となった満洲事変を検討する。
第一章「清朝の近代化とその変容」・第二章「近代日本の形成と日清・日露戦争」・第三章「辛亥革命、第一次大戦と東アジア」では、近代化の挫折・清朝の瓦解による内紛・欧米諸国の干渉によって、中国において排外主義が高揚し、日清・日露戦争の勝利によって、国際秩序の担い手の一角を占めるにいたった日本が、こうした排外主義に直面する状況が概観される。
第四章「一九二〇年代の国際理念と東アジア情勢」では、英米を中心に二〇世紀の国際秩序が形成されたが、民族自決や戦争違法化を謳いつつ、実際は欧米優位の安定的な国家関係の構築を目指し、大国間の利益調整を行うものに過ぎず、この国際秩序に対応するなかで、日本が次第に不利な立場に陥っていく状況が、当時の東アジア情勢を踏まえ叙述される。第五章「満州事変」では、第一章から第四章まで確認されてきた、当時の国際秩序についての基本的構図を踏まえ、満州事変が分析される。