定例研究会報告 渋川春海の尊皇思想・陸羯南の国家的社会主義

 5月14日の民族文化研究会定例会の模様を、ここでお伝えします。まず、「渋川春海の尊皇思想」と題した発表が行われました。渋川春海は、近年では冲方丁天地明察』で広く知られるようになりましたが、日本で初めて国産暦を作成した人物として著名です。ですが、春海には、崎門学派の系譜を引く尊皇思想家という、もう一つの顔がありました。この発表では、こうした尊皇思想家としての春海に迫っています。興味深かったのが、暦の作成と尊皇思想が、春海のなかでは別個の問題ではなく、有機的に関連した営為として捉えられていたことです。暦の作成は、天地の秩序を制定することであり、天子の専権事項でした。こうした意識の下で、春海は中国の授時暦を拒み、国産の貞享暦を、尊皇心から作成したわけです。

 続いて、「陸羯南の国家的社会主義」と題した発表が行われました。陸は、新聞「日本」を拠点に、明治時代に鋭い論陣を張った政論家です。陸は、徳富蘇峰などと並び、明治時代を代表する国粋主義者でした。ですが、明治時代の国粋主義者が、日本における社会主義の紹介者だった事実は、あまり知られていません。この発表では、こうした明治時代の国粋主義者である陸の、社会主義的な側面を追っています。陸は、論文「国家的社会主義」などで、放任経済による弱肉強食を憂慮し、国家が弱者救済において、積極的な役割を果たすことを主張しています。興味深かったのが、陸の社会主義的な側面が、儒教ヒューマニズムに裏打ちされていたり、足尾銅山鉱毒事件といった当時の世相への危機感が背景にあったり、単なる国粋主義社会主義の折衷ではなく、陸らしい問題意識によって支えられていたことです。これらの発表が終わった後は、非常に活発な質疑応答が行われました。

 

 

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陸羯南